映画『JOKER』はやっぱり問題作だった!
ネタバレ含むのでこれから観る方は注意!
これほど悲しい映画は久しぶりに見た。
悲しいと言っても本編で涙が出ることはなく、実際には驚きと衝撃によって泣いている暇がないというのが正しい。上映が終わり、スタッフロールで目を閉じてストーリーを振り返るとなぜか涙が溢れてきた。
理由を一言で言い表すのは難しいくらい闇が深く、繊細な話なのだけれど、主人公のアーサーが感じた『孤独や絶望』を想像するとただただ切ないの一言。主人公の犯した罪や凶行は許されるものではないけれど、そうしたかった、そうせざるを得なかった心境は本人の置かれた状況や周囲の対応からなんとなく理解できる。やっぱり誰もが人に認められたいし、自分の思いを誰かに理解してもらいたい。それが叶わないと分かったときに孤独を感じて自分の周りの物に憎しみを感じてしまう。この辺が常に自分の居場所を探し求める現代人にとって共感を覚えるポイントなのではないかと感じた。
では、どのようなシナリオだったらアーサーは幸せになれたのだろうか。
やはり根本的な原因は母親の愛情を受けて育つことが出来なかったからではないかと思う。愛情を受けて育てられれば、同じような愛情を誰かにそそぐことが出来たのかもしれないが、母親は精神異常かつ血がつながっていないという事実を知ってしまい、不幸にもこれが人生を踏み外すトリガーになってしまった。もともとは心優しい青年だったし、自分に対して親切にしてくれた人には優しく接することが出来た。コメディアンとして周りの人を楽しませようという気持ちも、周囲に対するやさしさの現れなんだと思われるが、最終的に自分を不幸にする人たちに囲まれてしまい、持っていたネガティブな感情をあたかも『ヒーロー』のように焚きつけられて、アーサーという青年の存在がこの世から消されてしまった。。
その変わり果てた姿がバットマンの世界でいう『JOKER』という存在という事なのだが、本作ではバットマンとの関係は描かれず、どのようにしてその悪役が誕生したのかというバックグラウンドをスピンオフとして取り上げているという位置づけになっている。しかし、バットマンの敵役という関係を無視しても、単独の作品として十分に完成度が高く、むしろ『アメコミ』に絡める必要はない気がした。
あえてこの闇の深いテーマに取り組み、一つの作品として仕上げたトッド・フィリップス監督の仕事は称賛に値する。また、アーサーを演じたホアキンフェニックスも複雑な心境を見事に演じきっており、主演男優賞をとってもおかしくないと思う。
作品としては、触れてはいけないようなセンシティブな領域に踏み込んだ『問題作』であり、子供に見せたくないとか、公開日に警官を配備するといった事態を招くのも無理はないと感じた。あまりに悲しいストーリーのため、誰でも気軽に見れるという映画ではなく、人に薦めたいかというと微妙だが、気になっているという人には是非見てもらいたい。そしてこの作品を通じて、人の中に潜む孤独との向き合い方や、愛情というものの大切さを感じることで、周りにいる人にやさしくなれる人が増えれば、この生きにくい世の中が少しだけ変わるかもしれない。
映画『ジョーカー』特報【HD】2019年10月4日(金)公開